幻想郷の結界に綻ほころびがないことを確認した霊夢は、覗き魔の気配を感じて話しかけた。
「うちの神社にも強力な結界を引こうかしら、
参拝客以外入れなくなるやつ」
「ただでさえ誰も来ないのに
相手を選ぶ余裕があるのかしら……」
失礼な大妖怪はひょこりとスキマから現れてふふふと笑う。
「その参拝客が妖怪だらけの神社を
参拝先に選ばないから困ってるんじゃない」
増える妖怪の居候、馴れ馴れしい妖怪の訪問客、最後に人間の来訪者が来たのはいつだろうか。
たまの人間といえば、金髪できのこ好きな魔法使いだったり、余所の神社の巫女だったりするのだ。
「でもでも、そんな結界を引かれたら
遊びに行けなくなっちゃうわ」
「あんたは結界があろうがなかろうが
関係ないでしょ」
「確かにそうね。でも強力な結界……
ねえ……大丈夫かしら……」
「……なにか問題でもあるの?
妖怪友だちの心配とか?」
紫は結界を引いた未来を想像しているのか、くすくすと笑い始めた。
「いえ、きっとなのだけど。強力な結界なんて
逆にみんなの興味の的になると思って」
「……………………ああ、もうっ」
隠されれば暴く、防げば乗り越える、追い出せば居座る、厄介な顔ばかりが心に浮かぶ。
幻想郷を守る結界にも似たようなことが言えるのかもしれない、完全な守りなどないのだ。
「誰でも受け入れていたほうが
かえって面倒が起きないと思うわ」
「それって結局なにしても無駄だから
あきらめろってことじゃない……」
ひゅううと冷たい夜風が吹いた。なんだか温かな布団が恋しい。
……きっと今日と変わらない明日に向けて、早めに寝ることにしよう。