「うぃ~ひっく」
萃香は瓢箪ひょうたんを傾けて酒をぐびりと飲む。
「懐かしいねぇ」
その様子を見た勇儀が盃を手にはんなりと笑った。
妖怪の山はかつて萃香が支配者として君臨していた場所だ。
二人は今、地底にある旧都――鬼の国、地獄とも呼ばれる場所での暮らしを満喫しているが、
萃香のひょんな思い付きで妖怪の山に遊びに来たのだった。
妖怪の山に住んでいた頃は天狗や河童を使役して絶対の縦社会を築いていた故に、
射命丸やにとりを始めとした妖怪達は二人に頭が上がらない。
萃香はいつも酔っているが、その能力は強大かつ無茶苦茶でインチキじみたもの。
一方、星熊勇儀の能力は怪力乱神、萃香を技にして最強と言うのであれば、勇儀は力にして最強。
足を踏み鳴らせば建物は倒壊し、咆哮を上げれば無数の弾幕が宙を舞う。
情報の少ない鬼であるが、その力は紛れもなく本物中の本物である。
「どれ、私にもう一杯注いどくれよ」
そして酒の強さも伊吹萃香と肩を並べる本物であった。