上白沢慧音は半妖でありながら、人とともに暮らしている少し変わった存在だ。 しかも、人間相手に教鞭をとるという、妖怪としてはあるまじき立場にいる。   「宿題の準備に手間取ったな……
もうすっかり夜になってしまった」  
とっくの昔に夕日は沈み、辺りは闇に包まれ始めた。   「んんっ……明日も寺子屋だからな。
なるべく早く済ませたいものだ」
僅かな明かりに照らされながら、慧音は伸びをひとつ。 伸びのついでに顔を上げた慧音は、動きを止めた。 大地から遠い場所にある、穢れとは無縁の円形が目に飛び込んできたからだ。   「そうか、今日は満月か」   人を狂わせるとも言われている月明かりが彼女を照らすとき、 ワーハクタクは真の力を発揮する。 角が生え、髪の色が変わり、精神性に大きな変調を来たすとともに、重要な役目を負うこととなる。   「……どうやら今日は眠れなさそうだな」