普段は永遠亭を住処すみかとしているが、時折迷いの竹林で悪さをする妖怪がいる。 彼女の名は因幡てゐ。健康に気を遣った結果、何百万年も長生きしてしまった妖怪兎である。   「ちょっと長生きはしてるけど、
あたいはただの野兎。
ぴょんぴょん跳ねるしか能がないのさ。
 ……そんなことより、
あんたにうまい話があるんだけど、
話だけでも聞いていかないかい? いひひ」
耳立て腰振り手をこすり、口から漏れるは怪しげな笑い声。 人間を幸福にする程度の能力という大層な能力を持ってはいるが……。   「詐欺? いやいや、滅相もない。あたいのこれは
ちゃぁんと結果的に人間を幸せにしてるんだ。
 まーあ? 幸せの尺度は人それぞれだから、
納得いかないやつもいるかもしれないけどさ」  
八意永琳が彼女に与えた知恵は、依然として誰かの役に立つことはなく。
「反応が悪いなぁ。
もしかして結構警戒心が強めなのかな?
 まあまあ、それならしょうがない。
反応のない釣り針は早めに上げるに限るからね。
ほかのカモ……もとい、契約先を探すとするよ」  
てゐは今日も自称幸せの野兎として誰かを口車に乗せるべく、耳を立てている。