「お嬢様も無理難題を押し付けるんだから
……困ったものね」  
月明かりが照らす夜。咲夜はレミリアの命を受け、任務を遂行するべく夜空を駆け抜ける。 夜を紅に染めることが主である吸血鬼の願いならば、咲夜は躊躇うことなく実行するだろう。   「夜は私とお嬢様のテリトリー。
姿を晒すということは、
それ相応の覚悟があるのでしょうね」
姿を見せる敵に対し、不敵な笑みを浮かべる咲夜。夜の彼女に対峙した存在は、 瞬きする暇もなく消えてなくなってしまう。夜の吸血鬼を守る騎士たる彼女は時間を操り、 楯突く存在を完膚なきまでに打ち砕く。あとに残るのはそこに誰かがいたという残滓だけ。   「……あら、口ほどにもない。
呆気ないものでしたね」  
ナイフを懐にしまい、咲夜は再び闇夜に紛れる。次なる得物を見つけるために。
「大丈夫です、お嬢様。
そう時間はかかりませんので」
「……もしかして私を心配してくださっています?
ええ、冗談です」  
屋敷で帰りを待つレミリアと語り合う咲夜。 表情こそあまり変化はないが、その声は心なしか弾んで聞こえる。 口数は少ないながらも、固い信頼が感じられた。
「そんなに気になるなら、
お嬢様が仕事をすればいいのに……」
「なんて、お嬢様が直接手を出しては
沽券に関わりますから。仕方ありませんね」
「あぁ。帰ったらたまには
私を労って欲しいのですけれども」