「おっ、目が覚めたみたいですね。調子はどう?
お腹減ってません?」   「ばあっ! 驚いた?  あなたは今、船に乗ってるんだよ?」  
名も無き人間が目を覚ますと、そこは村紗が船頭を務める船の上だった。 なぜか小傘も同乗しており、楽しそうに人間の顔をのぞき込んでいる。
「ん? この船がどこに向かってるのか
気になるって?」   「えへへー、今から私たちはねー。  忘れられた者たちが集まる場所に行くの」  
改めて周囲を見回した人間は、乗っている船がボロボロの難破船であることに気付く。 ボロボロで、今にも壊れそうな船は海に浮かんでいるのが不思議なぐらいだ。
「貴方もみんなに忘れられたものなんでしょう?
気にしないで、
 今から行く場所なら
そんなこと気にしなくて済むから」   「誰も知らない場所で、  みんながみんな何も知らない。   忘れられて、名前も無くて。  それでも楽しく笑って過ごせる場所なんだよ」
小傘と村紗が人間に手を差し伸べる。名も無き人間は呆然としながらも、ふたりの手を取る。  
「さあ、一緒に行こうよ。  忘れられたものたちの楽園に」  
「舵取りは任せてください。
お前をちゃんと送り届けてあげますよ」  
いつしか船は海の上でなく、宙を舞っていた。