「よーし、着いたぞ。
ここが忘れられたものたちの楽園だ」
「えへへー。いろんな子たちが来てるねー!
見て見てー!」
ふたりの声に導かれ、名も無き人間も船を降りて宙を舞う。ふわりと宙に浮かびながら
周囲を見回してみると、そこにはさまざまな物や生き物、霊や神仏まで楽しそうに舞っている。
「ここにいるものはみーんな、
色んな人に忘れられちゃったんだよ~。
無くした物とか、忘れ物とか……」
「忘れられてしまった神様なんかもいますね。
どうです? 悪くないでしょう?
あなたも今日からその一員ですよ。
もっと楽しそうにあちこちまわってみませんか」
村紗に言われたとおり、名も無き人間は周囲を巡る。
野ざらしになった廃屋……。誰の物かも分からない靴……ボロボロの着物……朽ち果てた人形……。
「忘れられたものだけど、昔はきっと誰かに
大事にされてたこともあるんだろうねー」
小傘はそう言いながら、周囲に散乱している物たちに語りかける。
すると物たちは小傘の声に応えるように、小気味よく動いてみせた。
「もう少しすれば、ここにある物も私と同じように
妖怪になれるかもねー」
「あー。そうだ、あなたもいつか
私と同じような妖怪になれるかも!
そしたら仲間だね! 一緒に頑張ろうよ!
毎日が楽しいよ!」
小傘の笑顔を見つめながら、名も無き人間モノはそれも悪くない……と思ったとか。