「ばあ!」
人里の片隅で、突如、通行人の前に飛び出す小傘。
誰かの驚きが糧となる彼女にとって、それは大切な日課だ。
「えへへ、驚きました? 驚きましたよね?」
「……あれれ? あんまり驚いてない?
うぅ……お腹が空きました……」
だが怪異に溢れた幻想郷では、彼女の登場に心の底から驚いてくれる人間はあんまり多くない。
「お願いしますよ~。驚いてください~。
最初からやり直しますから
そこから歩いてきて下さい」
「え? 2回目は尚更驚かない?
確かにそれはそうかもですけど~」
「あなたが驚いてくれないと困るんです~。
お願いしますから、もう一回だけ!」
……なんて、妖怪にも関わらず時として人間に泣きつくこともあるとかないとか。
妖怪の威厳とかはそんなに感じられないが、そのせいで里の人間たちにとっても
取っつきやすく馴染みのある妖怪として親しまれてしまっている。
「はい! 今度こそ頑張って
驚かせてみせますからね! だ、大丈夫ですよ!
さっきはタイミングが
悪かっただけなんですって!
あなたも驚く準備をしてくださいよ~」
今日も彼女は、お腹を空かせながら、通行人を驚かし続ける。