「うーん。やっぱり人間には強すぎたか?  おい、起きろよ。  ここで寝ると起きられなくなるぞ」  
萃香に叩き起こされ、人間は目を覚ます。いったい自分はいつからここにいたのだろうか。   「大丈夫。ここは夢と現実の狭間よ。
気が済むまで何日でも何年でもいていいわ」
人間は、ここは普通の人間が立ち入ってはいけない、あの世に近いどこかなのだと理解する。 しかしと萃香とともに過ごす時間はとても楽しく、 差し出される酒も食事も、現世では味わうことのできない極上の代物で、すっかり虜になってしまう。  
「こんなもん口にしたら、こいつもう何を喰っても 満足しない体になるんじゃないか?」  
「大丈夫よ。元の場所に送り返すときに、
ちゃんと記憶を消してあげるから」
「相変わらず器用なもんだな。 私も嫌な思い出とか消してもらおうかな」  
「あら、貴方にそんなものがあったの?」  
「うーん……考えてみたら無かったな」
紫が言うには何年でも気が済むまでいてもいいというが……本当だろうか?   「あら? 気に入ってくれたの?  でも安心していいわ。
気が向いたらまた呼んであげるから」   「外の世界の話も、たまには聞いてみたいからな。 今度は違う酒を試してみるか?」  
すっかりふたりに気に入られたらしい人間。これから狭間の世界も賑やかになることだろう。