「やぁやぁ小傘。この私に何か用かい?」  
桜舞い散る境内にて、封獣ぬえは歪な翼をゆらゆら揺らしながら、わざとらしい笑みを浮かべる。 彼女の眼前にいるのは、唐傘の付喪神つくもがみである多々良小傘。 眉を吊り上げ、口をきゅっと結んだその姿から、どうやらだいぶご立腹のご様子だが……。
「もちろん、あなたを驚かせに来たのよ!  いつもいつも驚かされてばかりで、
私のプライドはもうズタズタなんだから!」  
「そいつは悪いことをしたわね。でも、返り討ちに されるそっちにも非があるんじゃない?  私はただ、やられたことを  やり返しているだけだしさ」
「うるさいうるさいうるさーい!
誰かを驚かせるのは私の専売特許なの!
それを奪おうとするだなんて言語道断! 私は
私のアイデンティティを守ってみせる!」  
小傘は勢い良く傘を振り上げ、ドドンと石畳を踏みしめる。 唐傘から垂れる長い舌はぬえを挑発するかのように、べろんと宙を舐めた。
「ふぅん……じゃあ、 あんたなりに私を驚かせてみなよ。  私には思いつきさえしないような、  とびっきりの方法でさ」  
「上等よ!
私の本気を今こそ見せつけてやるんだから!