「誰かー! 誰か驚きたい人はいませんかー!?
この多々良小傘が人間を驚かせますよー!」
怖い物見たさという言葉があるらしい。人間には、自ら怖い物を見にいって驚きたい習性がある。
そんなことを誰かから吹き込まれたらしい小傘は、ちょっとした商売を始めることに。
「多々良小傘の驚かせ屋です!
寄ってらっしゃい、見てらっしゃいですよー!」
人里近くの廃屋を借りて、人間を化かして驚かせる。
これなら空腹も満たされるし、ついでにおひねりも貰えるかもしれない……。
そう思って始めた商売だが客足は芳しくない。なぜか皆、大して驚いてくれないのだ。
「ううん……何が悪いのかなぁ? 私は真面目に
人間たちを驚かせようとがんばっているのに」
廃屋の近くに備え付けた看板には、『恐怖! 化け傘の小屋!』と書かれている。
その看板がすべての元凶であることに小傘はどうやら気付いていないようだ。
そもそも、小屋に入っても小傘しか出てこない。
お化け屋敷というには出し物が少なすぎるのが難点であった。
「あっ! そこの人!
もしかしてお客さんですか!?
どうぞどうぞ! 今から始めますので!」
人なつっこい笑みを浮かべて客を迎え入れる小傘。
彼女に驚く人間は少ないが、その親しみやすさで、愛らしい存在として扱われているようだ。