「この里もずいぶん健康な人間が増えてきたわね
いろいろ薬を作った甲斐があったわ」
人里の薬屋を遠目に眺めながら、永琳はそっと微笑む。
幻想郷で生きていくことを決めた彼女は人間向けの薬を作って販売している。
月の技術で作られた薬は効果てきめんで、不治の病すらたちどころに回復させてしまう。
ただし永琳自身はそれを誇ることなく、鈴仙たちを通じて卸しているので
里の人間たちに名は知られていない。
「人間の命は限りがあるけれど、
怪我や病に苦しむ人生はとても悲しいと思うわ」
「私にできることはこれぐらいだけれど、それでも
人が楽しそうに過ごしている姿はいいわね」
永琳は人間たちが薬を求める姿を見て、満足げに笑う。
用事を済ませ、主のもとへ帰ろうとしたとき、ふと人里で蔓延る流行病はやりやまいの情報を耳にした。
「はぁ……妖怪も厄介だけれど、
病はそれ以上に厄介な存在ね。
早く屋敷に戻って、
鈴仙と薬の調合でも始めましょうか」
罪を背負い月の都を追われた永琳だが、ここではひとりの薬師として里の人々に慕われている。
そんな余生を選んだことに未練はなく、こうして人々の役に立っているというのも悪いものではない。
彼女は幻想郷の住人として、確かな居場所を手に入れていた。