十五夜。 一年で最も美しいとされる、中秋の名月が夜天に昇る。 大のお祭り好きである幻想郷の住人達は思い思いに集まって、 団子と御馳走を肴に酒を飲み、語らい、歌に興じる。   「我々の出番とみた……」   「お囃子はやしに唄、これは踊らざるをえまい」   「待ちなさい。ここは私がやらせてもらうわ」
騒ぎ楽しむ住人達を前に、こころが一人ブツブツと呟く。 六十六の面の集合体であるこころの脳内会議が行われている。 そしてつい、と目が薄く開き、無表情のままに纏まとう雰囲気が凛としたものへと変わった。 面とは、能楽に付随するものであり、面の付喪神であるこころもまた、能楽へ精通する舞芸者。 歌に合わせ、ゆっくりと舞いを始めるこころ。 滑らかな足さばき、手の振り、体躯の動作。どれをとっても熟練者のそれだ。   「見せてあげましょう。本当の舞というものを」