「なんですか針妙丸? これはきびだんご……?
はあ、まあ頂けるのであれば素直に
受け取りますが……ひとつだけ言わせてください」
「私は犬ではありません、狛犬です!
あくまで犬役で、本当の犬じゃありません!」
そしてそれを口にすると……嬉しそうに尻尾を振り始めた。
「あっ! 美味しい! 美味しいです!
このきびだんご、とっても美味しいです!」
その姿は、もはやただの犬だった。
「うーん……。鬼退治の機運を高めるために
桃太郎一行になりきるのは良いことです。
でも、きびだんごを用意はしなくても……」
こういうのは形が大事、と針妙丸が言う。するとあうんは悩んだ表情をした。
「きびだんごはとても美味しいのですが、
なんだか犬のように餌付けされているようで……」
しかし端から見れば彼女に狛犬らしい威厳はあまりない。せいぜい忠犬がいいところだ。
「……なんですか?きびだんごをちらつかせて。
え、餌付けをしようとしても無駄ですよ!
私にだって誇りがありますからね!
決して食べ物に釣られたりなど……っ!」
必死に反論するあうんだったが、その視線は針妙丸の持っているきびだんごに釘付けだ。
「え……ええと……
別にきびだんごに釣られたわけではありません。
私は針妙丸たちに協力しつつ
大事なものを取り返しに行くまでですからね!」
きびだんごを頬張るあうん。
その最中も尻尾がぶんぶん揺れていることに、彼女が気付く様子はない。