「あっはははは!
ほらほら! 噂の殺人鬼だぞー!」
ホッケーマスクを被り、チェーンソーを掲げたぬえが高笑いを上げる。
「しっかし人間たちも
変なイベントを思いつくもんだね。
幽霊や妖怪に化けてお菓子をねだるなんて、
どこぞの妖精が聞いたら大喜びのイベントだよ」
人間たちは恐怖で顔を引き攣らせながら逃げ出していく。
千年以上前から人を驚かし続けてきたぬえにとって、ハロウィンは実にしっくりとくるイベントだ。
「何のお咎めもなく、
合法的に人間たちを脅かすことができる。
こんな素晴らしいイベントがあるなんてね!」
そして今は人里に降りて、人間たちを恐怖に陥れている真っ最中だ。
「ま、一日限りのお祭りなんだ。
楽しまなきゃ損ってもんだろ?
ほ~ら、妖怪か獣か植物か何だか分からない
恐ろしいなにかだよ~」
手当たり次第に正体不明の種をばらまいて、人間たちの恐怖を煽りに煽るぬえ。
無害そうな満面の笑みとともに、彼女は純粋な悪意を振りまいていく。
「怖がらないと悪戯しちゃうぞ!
トリックオアトリートー!」
狂気的な笑い声とそれに呼応するような人々の絶叫は、
きっちり日付が変わるまで、幻想郷に木霊し続けたのだった。