グランドピアノの旋律が、薄暗い店内を縦横無尽に駆け回る。
ハミング交じりに鍵盤を弄ぶのは、
プリズムリバー三姉妹の末っ子、リリカ・プリズムリバーだ。
「ピアノもいいけど、
それだけだと物足りないでしょう?
そんな欲張りなリスナーのために、
こんなかくし芸を用意してみたわ」
リリカが指を鳴らすと、周囲に置いてあった楽器が宙を舞った。
しかし、それだけではない。なんと、浮遊した楽器がひとりでに音色を奏で始めたのである。
「私は三姉妹の中で唯一、
全ての楽器に精通している。
それに騒霊ポルターガイストだから、
手で触れずに楽器を操ることができるってわけ」
たったひとりで数多の楽器を扱うその姿は、まさに楽団の指揮者の如く。
楽器を同時に操れるとはいえ、それぞれの楽器から異なる音色を引き出すなど、
凡人の為せる業ではない。
「一人で全部演奏するの、派手で映えるでしょ?
だからウケが良かったのよね、
姉さんとか、姉さんとか……
妹とかに」
「さ、満足いくまで聴いていってくださいな。
当然、お代はいただくけどね?」
リリカのソロ演奏は、本当は誰かを慰め、元気づけるために始めたものなのかもしれない。