「なんだ、文さんですか。
一体こんな所で何をしているんですか?
いつでもどこでも油を売って、いい御身分ですね」
「うわ……。今日も辛辣ですねえ。
何もそこまで言わなくたって
いいじゃないですか。別に迷惑かけてないです」
顔を合わせるなり、わかりやすくしかめ面をする椛。ニヤつく文。
別にどちらかが何かをしたというわけでは無いのだが、どうもお互いに相性が悪い。
元々白狼天狗は鴉天狗を下に見ているところがあるが、
文と椛に限ってはそういう種族間の問題では無く、単にペースが合わないようだ。
「仕事中でもいいじゃないですか。
ちょっと私の話し相手になってくださいよ」
「勘弁してください。
この前だって、文さんのせいで
上司からサボるなと説教されたんですから。
白狼天狗は侵入者を見つけるのが仕事、
なのにお前はすぐに射命丸に付き合って……とか」
「ははあ、それはまた大変でしたねー。
仕事はちゃんとこなさないとダメですよ?」
「アナタのせいでしょう!
はぁ。私は真面目に働いているのに。
文さんのせいでグチグチと言われて……」
あーおもしろい。他の白狼天狗はあくまで鴉天狗うえのものへの対応しか返してこないが、
この犬走椛だけは、きちんとコミュニケーションが出来るつっかかってくる。
「私の話、ちゃんと聞いてます?」
「はいはい、聞いてますよ。
それで、なんの話でしたっけ?」
「あなたは天狗としての……いや、もういいです。
私は仕事に戻るので邪魔しないでくださいね」
仕事に戻っていく椛の背中を見て、明日もからかってやろうと誓う文。
椛にとっては迷惑なことこの上ないが、どうやら文にとっては日々の娯楽の一つだ。
呆れた顔をする椛の背後で、ニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべるのだった。