「幻想昇竜戦」の開催に向け、ルール策定を始めた河城にとり。 ルール決めの会議も兼ねて将棋の対戦を始めたが……   「むむぅ……
まさかそんな手を打ってくるとは……」  
将棋盤の駒を見つめながら、河城にとりは冷汗交じりに眉を顰ひそめる。 一見、普通に将棋を指しているように見えるが、彼女たちが行っているのは、ただの将棋ではない。 大将棋と呼ばれるこの遊戯は、駒の種類がとても多く、29種類の手駒を使って行われる。 当然駒が多い分、一局にかかる時間は膨大だ。ものの例えでなく、気の遠くなるほどの時間がかかる。 だが、いや、だからこそ、彼女たちはその大将棋に魅了される。特に、天狗や河童たちは。 気の遠くなるほどの時間を生きる妖怪たちは、常に暇潰しに飢えているのだから。
「結構、将棋の腕には自信があるんだけど
……これには驚いた。
 ここまで完璧な布陣を見せられてしまうと、
もう褒めるくらいしかできなくなっちゃうな」  
そう言うにとりは顔に諦めの表情を張り付け……たりはしない。 追い詰められた状況だからこそ、ちょっとやそっとじゃ覆せない劣勢に置かれているからこそ、 それを跳ね除ける方法を考えるのが楽しくなる。逆境こそが、大将棋の醍醐味なのだ。
「さあて、ここからどうやって逆転してやろうか
……まあまあ、そう慌てないでよ。
 焦らずとも、
時間はうんざりするぐらいにあるんだ。
何時間、何日、何か月、それこそ何百年も。
 だから、私が満足できる答えを得られるまで、
気長にお待ちくださいよ」