「ううむ……次の一手は……」
「さあさあ!
天狗の力を見せつけてやってよー!」
河童と将棋の対局に挑んでいる椛の傍らで、応援しているはたて。
勝った方が今日の宴会を奢る取り決めとあらば、はたての応援にも熱が入るというもの。
同じ天狗の代表として、ここはなんとしても椛に勝って欲しい。
しかし勝負の行方は一手一手で目まぐるしく変化する。
「やっぱりそこねー! 勝負の決め所よー!
一気に王手をかけて! えいっ! えいっ!」
「き、気が散る……。
はたてさん、もう少しお静かに、
確かに応援して下さいとはいいましたが……」
「よく知らないけど、駒を動かすんでしょー?
簡単でしょー。ささっと決めちゃってよ!」
「やっぱりとは思いましたが、
はたてさんは将棋のルールを
よくわかってなさそうだな」
重要な一手を熟考する椛を他所に、良く分からないが熱烈な応援を続けるはたて。
彼女は既に勝敗そっちのけで、いかに試合を盛り上げるか、どんな応援をするか必死に考えていた。
「ううう~~~~ん! 盛り上がってきたねー!
これは明日の新聞の一面を飾っちゃうかもー」
「る、ルールも分からずに
一面記事にしようとしてるんですか?
いやいや、それは流石に天狗の里の
将棋ファンたちが怒ります……あっ!?」
「ちょっとちょっとー!
駒取られちゃったじゃない!
何やってるのよー!」
「ち、違います! これは敢えて
取らせることで繋げる一手です!」
「え、でも『あっ!?』って言わなかった?」
「気のせいじゃないですか!?
私、今、集中してるので!」
「おおおっ!? なんか凄い気迫……!
私頑張って応援しちゃうからねー!
行け行けーーー!」
ルールが良く分かってないはたての応援で、とにかく対局は盛り上がっていた。