「守矢神社は今日も静か。
河童たちも研究に明け暮れている。
一先ず問題はなさそうですね」  
山の全域に目を凝らし、耳をぴくぴく動かすのは、白狼天狗の犬走椛。 『千里先まで見通す程度の能力』で日々山の見廻りを行っている哨戒天狗でもある。
「しかし、平和すぎるのも考え物ですね。
毎日同じことの繰り返しになってしまう。
 どうせ何も起きないのなら、河童のところで
大将棋の続きをしたいと考えてしまいますが……」  
彼女の能力の性質上、どこにいても見廻りは可能である。千里先まで見通すその眼で 妖怪の山を見張っている限り、それこそ鼠一匹の侵入すら見逃すことはないだろう。
「……一か所にじっとしておくと、
面倒な奴が絡んできそうだし。かといって
 わざわざ場所を移動するというのは、自分から
逃げているように見えてそれも好ましくない」  
奴、というのは真実を自分の好き勝手な都合で歪めて記事にしてしまう鴉天狗の少女のことか。 と彼女はあまりそりが合わないというのは妖怪の山では有名な話であり、 事実、彼女もそれを自覚している。だから顔を合わせたくない、と心の底から思うわけだ。
「仕事をしましょう、ちゃんと足も使って。
楽しいことはその後でもいいですからね、
 時間はたっぷりあるんですから」   何だかんだで仕事を真面目にこなす。それが彼女たち、哨戒天狗なのであった。