怨霊とてめったに寄りつかぬ地底の屋敷、地霊殿。そこで古明地さとりは心穏やかに過ごす。
人、妖怪、怨霊――あらゆる者の心の声が聞こえてしまうさとりにとって
素朴な動物たちと過ごす日々は、なににも代えがたい平穏――の、はずだったのだが。
ページをめくる静かな音が、静寂を切り取るように書斎に響く。不意に、その手が止まった。
「……お燐。そこにいられると、
新聞が読めません」
机の上に飛び乗ったのは、猫の姿のお燐。
にゃ? と主を一瞥。しかし、お燐はそこを居場所と定めたか、動こうともしない。
「ここがいい……ですか。
まったく、甘えん坊ですね、お燐は」
ため息を一つ。諦めて、お燐の背中を撫でる。と――
「あっ、さとり様。今のとこ、まだ見てないです」
肩にもたれるように、顔を出したのはお空。
「お空……あなた、文字が読めるんですか?」
「あんまり? でも、絵が描いてありますよ。
あっ、写真って言うんでしたっけ」
異なる要求に、やれやれ、と首を振ってから、ふっと笑みをこぼす。
――静かなのは好きだが、賑やかなのが嫌いなわけじゃない。
“声”が聞こえすぎるさとりにとって、無邪気で素直な彼女たちの騒がしさは、
むしろ耳に心地いいのかもしれない。