さとりは旧都に君臨すれども、決して慕われているわけではない。むしろ恐れられている。 それでも、管理者であるからには、やれることはやらねばなるまい。 そう思う程度には責任感が強いのが古明地さとりだ。だが――  
「さとり様、怨霊の管理はわたしがやりますから、 休んでてくださいよ」   「灼熱地獄跡の温度ですか?  大丈夫ですよ~、ばっちり調節してますからっ」
さとりのペット達はお燐やお空を筆頭に、主のためによく働く。 庭の手入れに地霊殿の掃除。人の姿をとれない動物の世話に、時には妹の遊び相手。   「……暇ですね」   予期せぬ休暇を持て余し、読みかけていた本のページをめくる。 ――物語はいい。とりわけ、感情描写が繊細なものは、さとりに未知の世界を見せてくれる。   「……心の声を聴くことと、文章で書かれた
人の感情を読み解くのは別だから」
ページを一枚一枚めくることで、幾重いくえものベールで包まれた人の心を、一枚一枚解きほぐしていく。 “心の声”という答えを当たり前に手にしてしまうさとりにとって、 その工程は不可思議であり、また発見に満ちているのだろう。   「……自分で書いてみるのも、
いいかもしれないわね」  
そうすれば、人とのかかわりが薄い自分にも、心の声の先―― “声”にならない“感情”を知ることができるのかもしれない。そんなことを夢想する。