天人である天子から見れば、人里の人間たちが行う『焼き芋』なるものは食べ物には見えなかった。
「こんな物が本当に美味しいのかしら……?
人間たちは凄く美味しそうに食べてたけど……」
落ち葉を集め、火を付け芋を焼く。
随分と貧乏くさい調理方法だが、落ち葉の清掃も含めた効率的なものらしい。
とは言え食にはうるさい天子。
食べてみて美味しくなかったら文句でも言ってやろう、などと考えながら芋を焼いていると、
だんだん周囲に心地よい香りが漂ってきたではないか。
「いい匂い……味付けもしてないただの芋なのに、
こんないい匂いがしてくるの?
うう~ん。待ちきれないわね……
もっと火を強くしちゃおっと。
落ち葉をもっと増やして……こんな感じ?」
色々と火加減を調節していると、芋にはこんがりとした焼き色が付いていた。もう十分だろう。
「あつっ!? あつつ……あつつ……。
おっ? おおおっ!? な、何よこれ……!?」
芋を手で半分に割ってみると、中から現れたのは黄金のように輝く美しい断面。
天子はその光景にはっと息を呑む。もう待ちきれない。熱さも忘れ、無我夢中で芋にかじりつく。
「はふ……ふー……。ん……!? んんんんん!?
お、おおお美味しい~~~~~っ!!」
「うそっ!? 何これ……
焼いただけの芋がこんなに美味しいなんて!!
凄いわ! 大事件よ!」
必死になって芋を食べ続ける天子。当然一本では飽き足らず、二本三本と手が伸びる。
それは彼女にとって至福の一時。なぜ人間たちが秋に感謝し、神を敬うのか分かった気がする。
「とにかくしばらくは
これを一日中食べ続けようっと!
んん~~っ! 今日は最高の一日ね!」