現世と幽世の境界は常に揺らいでいて、周囲の環境によって、濃くもなれば薄くもなる。
幻想郷の外にあるとある国では、ちょうどこの時期が最も境界の安定性が揺らぐ時期であり、
その揺らぎの影響により、世界は魔力に溢れ、最も危険な夜が訪れるという。
「じゃあ、その揺らいでしまった境界線は
どうやって戻すのよ?」
魔法の森でひっそり暮らす魔法使いのその言葉に、珍しく外に出ていたパチュリーは
家主が用意した紅茶で喉を潤わせながら、求められているであろう答えを返した。
「何でも、家の前で篝火を焚くだけで
揺らいだ境界を安定させることができるらしいわ」
「……え、それだけ?
現世と幽世が入り混じるかもしれない、
割と危険な状況なのに、
篝火を焚くだけで何とかできるものなの?」
「私も同じ疑問を抱いているのだけれど、
本にはそう書いてあるから、そうなんじゃない?」
「もしかして、外の世界の魔法って
幻想郷より進んでいるのかしら……」
本に書いてあるなら納得するしかない……とはいっても、あまりにも合理的ではない対処法に、
アリスは不服そうに眉を顰める。納得できないものはしょうがないのだ。
「わかったわ。
じゃあ、私たちで実際に試してみましょう。
ちょうど今はその境界が揺らぐ時期なのだし。
試すには打ってつけでしょう?」
「そう。頑張ってね。
結果だけ教えてくれればいいから」
「あなたも一緒にやるのよ。
観測者は多いに越したことはないでしょう?」
「……まぁ、紅茶の代金分ぐらいは
こき使われてやっても良いけど」