嵐の前の静けさとはよく言ったものだが、嵐が過ぎ去った後の静けさもまた、多少の趣がある。
……なんてふざけたことが言えるのは、後片付けとは縁のない者だけである。
「私は何にでも情緒を感じられる
詩人じゃあない。
合戦後みたいなこの惨状に
趣なんか覚えられるわけないだろ」
神霊廟を中心に起きた火祭り。幻想郷中で炎が焚かれ、それはそれは盛り上がった。
が、火をつけた後に残るのは大量の灰と燃えカス。迷いの竹林もそれは同様で、
竹林の一角は、燃えた竹がバタバタと倒れ、地面では未だに残り火が熱を放っていた。
藤原妹紅は心の底から面倒臭そうに顔を歪めながら、
ひとつ、またひとつと燃え残った竹を拾っていく。
「どこぞの放火魔が暴れに暴れたせいで、
一日まるまる潰れるとはな。
そもそも、私の仕事は竹林の案内であって、
こんな雑用なんかじゃあないんだけど……」
竹を勢いよく燃やすと、パン!ととても大きな音がする。その音で厄災を払うしきたりもある。
今日の妹紅はその破裂音で目を覚ました。まだ燃え残っている竹が、ジリジリと燃え続け弾けたのだ。
安眠を手に入れるためには、燃え残った竹をきっちり片付けて灰にしておく必要がある。
「一切合切焼却処分してしまえれば
早いんだけどなぁ。
そんなことをしたらまた巫女に
グチグチ文句言われそうだし……。
って、どうして私がこんなことに
悩まなくっちゃあならないんだ!」
「せっかくのお祭りだから
羽目を外すのも分からなくはない。
……でも、後片付けぐらい自分でしろよな!」
彼女の行う好敵手との「殺し合い」で竹林は定期的に焼け野原になることもあるのだが、
どうやらそのことは忘れているらしい。