芳醇な香りが漂ってくる。ほのかに酸っぱいような、甘いような、秋の香りが。 実りの季節は、豊穣の神である穣子が本領を発揮する季節だ。   「ふっふ~ん。今年も豊作、豊作~♪」   自らが育てた収穫物に囲まれて、ご満悦な穣子。その姿は人間の村娘とそう変わらない。   「お姉ちゃんは紅葉こそ秋の風物詩っていうけど、
やっぱり秋といえばこれよね~」
素朴に暮らす里の人間にとっても、農作物の出来は大きな関心事だ。 神とは言え、比較的人間の生活に密着した穣子に神々しさはないが、 里の人間からすればかえって身近に感じられるようだ。 人間の里の収穫祭に毎年呼ばれているのも、そんな穣子の気質ゆえだろう。   「サツマイモは焼き芋にして~、
葡萄はワインにするのもいいかな♪
 かぼちゃは最近じゃあ、はろうぃん?
っていうお祭で使うみたいね」
秋の香りを胸いっぱいに吸い込み、穣子はにっこりとほほ笑む。   「うんっ、いい香り。そうだ、収穫物で
香水を作るのはどうかしら。例えば……お芋とか!
 うん、すっごく秋の神様っぽい!
きっと、これでますます信仰が集まるわ!」  
神とはいえど、自らを祀まつる神社がある訳ではない穣子にとって、 豊穣神として人々から信仰を集めることは重要だ。 彼女の存在は彼女自身の努力によって守られているのだ。 とはいえ、甘い香りを漂わせることで、どれだけの信仰を集められるかは疑問だが。