山が色づき、人々が秋の味覚を楽しもうという季節、しかし……。   「豊穣の神様が不在だなんて……なんてこと……」   人里から守矢神社に帰ってきた早苗は、里で受けた相談を頭に巡らせていた。 なんだか例年より芋が小さい気がする、例年より栗が採れない気がする、気がする、気がする……。 豊穣の神が閉じこもったからといってそんなにすぐに影響が出るわけはない。 だが、病は気から。実りとは命に関わることだ。神の不在がもたらす不安は、計り知れないもの。 そこまでの相談はまだないが、冬を越せない者が現れてもおかしくない……かもしれない。 そんな想像をし、ぐっと握った手を見つめる早苗。 この危機に守矢の巫女はどうすべきか……。
「このピンチを乗り越えれば、
守矢の信仰が増えること間違いありません!」   「うちの早苗は頼もしくなったもんだよ。  弱い神の信仰なんて取り上げて従えればいいのに」   「やる気があることはいいことじゃないか~! 強者の驕りを  弱者の呪いが食い破るのも世の常だしね」
悩む現人神を穏やかな顔で見守る二柱の神は、仲良く互いの足を踏みつけようとして失敗した。   「祟り神の呪いで不作が  おとずれようとしていると噂を流してもいいわ」   「畏敬が足りないから罰が当たったってね。  それを軍神様が助けてくれるって、流れよっ」
「そうだっ! やはり、こういうときはお供え物!
秋の味覚を、穣子さんたちに届けましょう!」
  いがみ合う二柱の神をよそに、早苗はもう一度麓へ降りていった。   ───巫女とは、かんなぎ。古来より、神の力を借り、神と交信してきた者。 人と神の縁を結ぶ。この営みを守り続ける。それには、様々な形があるのだ。