秋はいい。涼しい風に誰かの焚き火の匂いが香る、不愉快ではないのは豊かさの証だからだ。   「くんくん、これはお芋の香り、
向こうからは林檎の香り……ふふふふふっ」  
秋の豊穣を司る秋穣子にとって、秋の味覚は宝石にも等しい価値がある。 バチバチと栗が焼けて跳ねる音はさながらファンファーレ、揺れる黄金の稲穂はステージだ。
「みんな~、神様に感謝してよね。
私がいないと冬を越せなくなっちゃうよ~?」  
穣子はおどけてみせたものの、やがて顔をしかめてため息を吐いた。 豊穣神への信心が離れつつあることもそうだが、秋の終わりには必ず冬が来る。 豊穣の終わりは落葉から始まる、見渡すと山々を華やかに紅葉が彩っていた。   「姉さんは今から落ち込んでるのかしら、
我が姉ながらちょっと暗すぎるというか……」
近く様子でも見に行ってやるかと決心する、秋を謳歌する自分を見せつけるのだ。   「……綺麗に山を染める赤が美しいなら、
散りゆく様もまた美しいでしょうに」  
散ることばかりを気にして、自分の生み出した紅葉の美しさを忘れがちな姉を羨ましく思う。 豊穣を司ることの素晴らしさに否はないが、この秋の景色の華やかさを司る姉の力は、少し妬ましい。
「秋の実りの香りを、もっともーっと集めて、
姉さんに自慢しちゃおうっと!」  
気持ちを切り替え秋の幻想郷巡りを再開する、どうせ姉も内心では自分が一番と思っているのだ。 それが勘違いだと、秋は豊穣こそが重要なのだと、思い知らせてやらなければ。   「そうだ、焼き芋屋さんも始めないとね!」   秋はまだまだ始まったばかりだ。