静かな湖畔に佇む静葉。透き通った水面をのぞき見る彼女の表情は、どこか恍惚としていた。   「今年も来たわ、秋が。  秋は生命に豊かさを与える季節ときであり、
生命が終わりに近づいていく季節とき……」  
水面に落ちてくる枯れ葉を見つめ、ひとり呟く。 秋の到来は確かに待ち遠しい。しかし、秋の終わりも趣があって悪くない、と彼女は頬を緩ませる。
「染まる木々、静かな湖畔、
水面に浮かぶ、楓の葉。
 秋……それは一年の夕暮れ。空が黄昏るとき」  
詩的な言葉を呟きながら、湖畔に足を浸し、物思いに耽る静葉。 この時間は彼女自身、誰にも見られたくない大事な時間だと思っていた。 もしこの姿を誰かに見られたとしたら、彼女は身体ごと綺麗さっぱり消えてしまうかもしれない。 そんな事を思うくらいに。
「……ひゃっ!? だ、誰……!?」   静葉の背後で木々がカサカサと動き、彼女は身構えた。  
「この姿を誰かに見られるなんて、
 このまま消えてしまいたい……。
誰なの……? 消える前に、姿を見せて……」
謎の影に向かってそう呼びかけると、落ち葉の中から小さなネズミが一匹、姿を見せる。   「ネズ、ミ……。 そっか。あなたは、
これから冬眠の準備をしていたのね」  
小さな木の実を一生懸命に持って、よたよたと歩くネズミ。   「眠るのに良い場所を教えてあげましょう」   静葉は優しくそう語ると、ネズミをそっと抱え森の奥へと静かに消えていった……。