雪が降る寂れた神社。お社の階段にこしかけた神様、諏訪子は暇を持て余していた。   「うー寒い。寒いし暇だし、冬眠しちゃいそうだ。
こんな寒いけど、誰か来るかも知れないからねえ」  
ここには誰もいない。人気のない境内を見渡すまでもない。すでに、終わった神社と言ってもいい。 この場所にいるのは自分と、まだ諦め切れていない相棒の神様ぐらいなものである。  
「こんにちは~~! 今日も遊びに来ました! かみさま! ……かみさまどこですか~?」
「まーた来たのお嬢ちゃん、今日は寒いから中に
入っていたかったんだけど。しょうがない子だね」  
ふふふと笑い、諏訪子は少女の目を見て話す。少女は諏訪子を見ず、神社の中を覗きこみながら話す。 この神社の風祝、自らと縁のある当代の巫女、その装いは現代の学生服だ。  
「今日は学校でお友達から 面白い話を聞いたんですよ~」
「へえ、それはよかったねえ」   過去を思えば、巫女と神のやりとりとしては、いささか軽すぎるのかも知れない。 それでもこの子はこちら側を、神を軽く視てはいない。むしろ親しみすら感じる。 一生懸命に語りかけるこの子は、この神社に自分と、もう一柱のかみさまがいることを確信している。 その姿は見えなくとも。   「まあいつか、私が見えるといいねえ~」
「……あれ、かみさま? なにか、おっしゃいました?」  
「おっと、さっそくかな?」   少女は何か期待するようにしばらく耳を澄ませていた様子だったが、しばらくしてため息をついた。  
「また来ますね、かみさま。 今度はもっと面白い話をしにきます! 寒いので、くれぐれも風邪にはお気をつけて!」
「毎回こんな寒いとこ来て、
そっちが風邪引くんじゃないよ」
呆れて声をかけるも、気づかず少女は帰っていった。 この子が最後の巫女なら、それも良しと諏訪子は思った。だが、彼女はそうは思わないだろうとも。  
「――もちろんです」  
「……ま。好きにするといいけどさ」   諏訪子は背後からの声に気軽に返した。