季節は冬。神社の境内には白い雪が深く降り積もり、歩くことすらままならない雪景色ができている。
当然、神社の主である巫女は自室に籠って睡眠三昧。
時折、知り合いの魔法使い見習いが神社を訪れては、
布団にくるまる巫女を外に連れ出そうとする光景が広がっている。
そんな、ありとあらゆるものが引きこもりになってしまう、寒さに包まれた停滞の冬の中。
高麗野あうんもまた、
神社の番犬・狛犬としてはあるまじき姿で、今日という日を過ごしていた。
「わうぅーん……やっぱり寒いのは苦手でーす……
冬はやっぱり炬燵が一番ですねー。わうわう」
温かな空気を逃がすまいと炬燵布団をぴっちりと閉じ、その中央で丸くなるあうん。
狛犬と言えば神聖なる狗いぬのはずなのに、その姿はまさに惰眠を貪る猫そのもの。
「雪が降ったら喜び勇んで庭を駆け回るなんて、
そんな犬は今の時代、ほとんどいませんよー。
やっぱり時代は快適優先。温かな楽園が
ここにあるのに寒い地獄に自ら身を投じるなんて、
それこそ馬や鹿のすることですー。
狛犬は賢い番犬なんですよ。わおーん」
その遠吠えに覇気はない。神社を侵入者から守らなくてはならない存在とはとても思えない。
守られるべき神社の主は、すっかり炬燵の猫になってしまった狛犬を見て、呆れ返っていた。
「今日は強盗も妖怪も休業のはずです。
それでは、おやすみなさいー……」
眠気に身を任せて静かに目を閉じるあうんは、それはもう、とても幸せそうな表情を浮かべていた。