「これは一体……どういうことなのでしょう……?
さすがに少し、困ってしまいました……」  
相手の心を読む能力を持つさとりにとって、こんな札遊びなど勝って当然の物だと思っていた。 しかし、カジノ命蓮寺の結界のせいで能力を使えなくなっている。 時には煩わしいと思うことさえある自分の能力であるが、 その存在が当たり前となっているさとりにとって、それは五感のひとつを奪われることに等しい。   「落ち着きなさい……。落ち着くのです……!
まずは深呼吸、そして頭を働かせましょう」
地霊殿の主として、みっともない姿を見せるわけにはいかない。たとえ能力を奪われようと、 さとりの力は充分、他の者を圧倒できる。大事なのは、冷静な判断力と威厳だ。   「さあ、ここからが本番です。地霊殿の主としての
力をお見せしましょう……!」  
先ほどとは打って変わって、不敵な笑みを浮かべるさとり。もう動揺も迷いも無い。 ただ己を信じ、札を信じて勝負を挑むのみ。当てずっぽうの運任せにはしない。 冷静沈着に彼我の状態を観察し、必ず勝てる状況を生み出す。それが古明地さとりの本分なのだ。
「……あら、どうしましたか?
私の顔を見て、動揺してしまったようですね?
無理もありません。
……だって私には、心を読む力があるんですから。
たとえ第三の瞳を
塞がれたとしても……です」  
くすくすと面白そうに笑うさとりがゆっくりと札を開く。勝負は一瞬。しかし勝利は必然。 誰よりも心を見て来た彼女にとって、相手の一挙一動から心を読み解くなど、児戯に等しいのだから。