噂を聞いて訪れた者も、そこが命蓮寺だとはにわかには信じられないだろう。 静かに読経が響いていた寺の本堂は絢爛豪華けんらんごうかなカジノへと改装され、質素だった命蓮寺はどこへやら。 あちこちで熱狂の渦に飲み込まれた来場者が、悲喜こもごもの歓声と落胆を叫ぶ。   「ようこそ、命蓮寺ランドへ。
誰もが身を焦がし夢中になれるこの場所で、
人も妖怪も本日はどうぞ時間を忘れ、
心ゆくまでお楽しみください!」  
来場者を歓迎するのは誰あろう、兎を模した異装いそうに身を包んだ住職、聖白蓮。 普段のシックな装いからはかけ離れた姿は、しかし不思議と場に馴染んでいる。
「さあさあ、一勝負いかがですか?今宵は この毘沙門天の代理、寅丸星がお相手しましょう」  
男装姿のディーラー、寅丸星が絵札を自在に操り、席を勧めてくる。 その絵札さばきは熟練の勝負師を思わせ、腕に覚えありと名乗りを上げた者たちが挑んでは散る。 カードの数字に、くるくると回るボールの落ちる先に、誰もが拳を握り、目を輝かせる。 自分の才覚と運勢を試すべく、一手先の未来に挑む者たち。そこに、人や妖怪の区別はない。
「どうです、聖? ここにあなたの理想はありますか?」  
「そうですね。人と妖怪が真に平等な世界。
これがその答えのひとつかもしれません」  
理想という熱に浮かされているのは、聖もまた同じなのかもしれない。 争いのない世界を極楽浄土と呼ぶならば、これは地上にそれを再現しようとする試みなのか。 いずれにせよ、妖怪寺の狂騒は、まだまだ終わりそうにない。