「本日の壺振りを行うは、佐渡の二ッ岩。
このマミゾウが務めさせていただく所存」  
普段は人に化けて人里に潜り、多くの人間からの信頼を得ている二ッ岩マミゾウ。 非常に狡猾こうかつな一面もあり、妖怪たちに高く評価されている。 決して熱くなることはなく、冷静に物事をこなす彼女だが、勝負事となると話は別のようだ。   「はい、壺。どっちも、どっちも。
丁方ないか、ないか。ないか丁方」
丁方と半方がコマを揃えるのを待ちながら、マミゾウは壺を上から抑える。   「五割の確率で勝者と敗者が決まる
簡単な遊戯じゃが、
だからこそ希望と絶望が明白で面白い」   マミゾウはほくそ笑む。その瞳の奥では魂が熱く、ゆらゆらと震えている。 口から覗く牙は、まさにその証拠。賭博場の熱気に、獣の本能が疼いている。
「さあ、コマが揃った。後悔あっても
戻れはせぬ。すべて儂に任せるがいい」  
他人の運命を自分の手で振り回す快感、そして希望と絶望、それぞれの色に染まる様を見る優越感。 マミゾウはこの場にいる誰よりも、心躍らせていた。   「両者、覚悟はよろしいか? 目を瞑るな、
結果だけを見つめよ。では、いざ尋常に……勝負」  
ここは鉄火場。人と妖怪、交わってはならぬ者どもの入り乱れる場。ただならぬ熱気に包まれる中、 獰猛な笑みを湛えたマミゾウは、ついに運命の壺を振り上げた――。