それは、幻想郷の寺事情……のみならず、宗教の多様化にまで影響を及ぼしていた。
宗教にすがる人々が増える中、白蓮の弟子のひとり、寅丸星は命蓮寺への来客に笑顔を振りまく。
「おや、貴方も入門希望者ですか?
我が命蓮寺は去る者は追わず、
来る者は拒みませんよ」
命蓮寺は妖怪が住む寺院ではあるが、そんなことなどお構いなしとばかりに多くの人間がやって来る。
博麗の巫女や守矢神社の一柱は、立地がいいからだと言うが……それだけではない。
一番の理由は何を隠そう寅丸星。毘沙門天の化身である彼女を求めて、人々は命蓮寺を訪れる。
「……え? 入門希望ではなく、私に用事がある?
はて、以前どこかでお会いしましたでしょうか」
星には『財宝が集まる程度の能力』があり、
人々はその非常に縁起のいい才能にあやかろうと足を運ぶ。
楽をしながら贅沢をしたい。苦労をせずにお金持ちになりたい。人々はいつの世も欲に溢れている。
そんな人間たちに、白蓮がありがた~い話をして考えを改めさせるのが命蓮寺の日常のひとつだ。
「あはは……聖の話は長かったでしょう。
ですが、これも貴方のことを思って
話しているからこそ、かもしれませんね」
俗に説教とも言われる話を聞いた人間たちは、姿勢を正し、考えを正す。
「いいですか?生きていくにはお金が必要ですが、
だからといって楽をしてはいけませんよ。
誠意をもって毎日一生懸命働けば、
必ずや毘沙門天様は
貴方に徳を授けることでしょう」
そう言って自分も長話を始めてしまう星。これもこの寺の住職、白蓮に似たものか。
そんな彼女の表情はどこか生き生きとして見えた。彼女にとって、今の立場は天職なのかもしれない。
星は嘗て寅の姿をした妖怪だったと言うが――命蓮寺に訪れる人々の知るところではないだろう。