魔法の森の入り口に居を構える香霖堂。森近霖之助が店主を務める道具屋である。 人と妖怪の領域のはざまに位置する道具屋だけあり、その品ぞろえはガラクタから珍品まで様々だ。  
「返せ! それはご主人様の宝塔だ、 キミのような盗人のものではない!」  
古びた道具屋に響き渡るかしましい声に、店主――森近霖之助はやれやれと肩をすくめる。
「盗人とは失礼だな、
今回もまた拾ったから店に並べただけだ。
お代も払わずに持っていこうとする
君のほうが盗人だぞ」   「だが、所有権はこちらにある! なんで代金を払う必要があるんだ!」
憤怒の形相のナズーリンにも、霖之助はひるまない。妖怪相手の商売に慣れているのだろう。   「所有権を主張するなら、それを拾った者への
謝礼の意味でも、やはり代金は必要じゃないのか」  
ただの屁理屈でしかないが、盗人猛々しい……とまでは、ナズーリンも流石に言い切れない。 落ちていたのを拾ったという霖之助の言葉に偽りはなく、幻想郷にこれを裁く法は無いのだから。 さりとて、このような些事で閻魔えんまに沙汰を託すというわけにもいくまい。
「大体、大切なものなのに
二度も三度も落とすなんて、
君のところのご主人様は
本当にこれを大切にしているのか?」   「それについては何度も説教していることだが…… ご主人様のことを悪く言うなー!!」  
小さな賢将と名高いナズーリン。しかし、いくら飛び跳ねようと、その小さな手は宝塔には届かない。 賢将と商人の攻防は、今回ばかりは商人が一枚上手のようだ。