香霖堂における攻防から数日。命蓮寺にて、ナズーリンは寅丸星に愚痴をこぼしていた。   「なんとか宝塔は取り返したけど、ずいぶんと
高くついてしまったな……あの強欲商人め!」  
いまだに怒りが冷めやらないらしく、ナズーリンは小さな頬を膨らませる。  
「まあまあ、ナズーリン。無事に宝塔も 戻ってきたのですし、よいではないですか」
穏やかになだめる寅丸星の言葉は、しかし苦労したナズーリンにはおもしろくない。   「そもそも、ご主人様が宝塔を何度も何度も
失くすから、こんなことになるんじゃないか!
認めるのは悔しいが、
あの商人の言うことも一理ある!」  
口は災いの元ということか。ナズーリンの説教に、寅丸星はただ平謝りするしかない。 ふと――怒涛の如き勢いだったナズーリンの説教が、ぴたりと止まる。
「ところでご主人様……宝塔を
持っていないようだけど、どこにあるんだい?」  
主人の手に、あれだけ苦労して取り返した宝塔は……ない。  
「え? 何を言っているんですかナズーリン。 宝塔ならこの通り、手に……。……」  
沈黙は時として言葉よりも雄弁だ。冷や汗をかく寅丸星の目は、右に左に泳いでいる。
「……まさかとは思うが、
さっきの今で、もう失くしたのか……!?」  
冷や汗を流す寅丸星。ネズミを前に追い詰められるネコ科の妖怪というのも珍しかろう。 「いいかげんにしてくれ」命蓮寺に、ネズミの怒鳴り声が響き渡った。
「せめて、あの強欲商人よりも
先に見つけなきゃな……」  
ダウジングロッドを取り出しながら、ナズーリンはため息をつくのだった。