勝負事、たとえるならば弾幕ごっこやギャンブル。身近なものならじゃんけんでもいいだろう。 そういう物事には必ず勝者と敗者が存在する。 さらに深く切り込むと、そこには常に勝ち続ける者と負け続ける者も現れ始める。 運命とは決して平等なものではない。努力を重ねたが、それでも不幸になる者だって当然いるのだ。   「当たれ、当たれ当たれ当たれ当たれ……っ!
お願い、次こそは黒に……っ!」  
目じりに大粒の涙を浮かべながら必死な形相で両手を合わせるのは、泣く子も貧する貧乏神。 数多の者を不運にする力を持つ、依神紫苑と呼ばれる少女は今、自身の不幸と必死に戦っていた。
「そう、そこ! そこに止まって!
もう後がないの、もう素寒貧すかんぴんなの。
これ以上は何も失えない。だから止まって、
黒に止まって! お願い神様……!」  
貧乏神のくせに神へ祈りを捧げる紫苑。疫病神の妹が見たら笑って転げ回るであろう光景。 恥も外聞もなくただひたすらに紫苑が叫ぶ中、玉はルーレットの上を転がり……そして。 紫苑の祈りは決して届くことはなく。無情にも、玉は赤枠の上でピタリと静止した。
「あ……う、そ……? なんで、なんで
こんなに勝てないの? 一度も当たらなかった。
今度こそ、次こそはってチップ全額はたいたのに!
どうして、どうして……っ!」  
回収されていくチップを見ることなく、紫苑は大粒の涙とともに膝からその場に崩れ落ちる。 自分の運に敗北し、負け続けた者がこの後どうなるかなど、あえて語るまでもない――。