幻想郷でも最も怪しい賢者と、その実直な従者、その可愛らしい式神の日向ぼっこは続いていた。
陽気は皆平等に降り注ぎ、三人の少女はうとうとうつらとしながら、のんびりと会話する。
「紫様、藍様、とても良い香りについてなのですが
……私、少しわかったことがあります」
「あら、なにかしら。橙が見つけたんだもの。
きっと面白いことに違いないわ」
「一応先手を打っておくと、
甘い香りはシロツメクサの香りだからな」
橙は、そんなこと分かっていますよ、とほっぺを膨らませてから、ふとその表情を緩めた。
「よく晴れた日の紫様と藍様の香りは、
なんだか安心する……素敵な香りです……。
大好きな紫様と藍様の香りが、お日様の香りと
混ざって、ずっと嗅いでいたいです……」
うっとりとした橙の言葉に、紫と藍はばっと目を合わせて、ふたりとも自分のことを嗅ぐ。
「……汗くさいってわけじゃないわよね?」
「橙はそんなこと言いません、
純粋な誉め言葉です」
「あらそう。でも、香りのことを言われると、
なんだか恥ずかしくなってくるわね」
香水でもつけようかしらと紫は呟くと、橙はなにか誤解されてしまったかと慌てて口を開き、
「あ、汗くさいとかじゃなくて……お天気の日に
干したお布団みたいな素敵な香りです」
「干した布団の香り、ねぇ……まあ、良い香りでは
あるのだけど……それはそれで複雑だわ」
「紫様。橙は純粋に褒めているはずです。
ここは素直に喜んでおくべきかと」
紫と藍は起き上がり、橙を撫でくりまわしたあと、その頭を嗅いでなるほどかぐわしいと褒める。
ふたりの主から褒められた橙はそれはもう嬉しそうに、ありがとうございますとお礼を言った。