「藍様はまた無茶な頼み事を
押し付けるんだから……。
まあ、いつものことだけどね」
幻想郷を創生した偉大な妖怪である、八雲紫。その紫の式神である九尾の妖狐、八雲藍。
そして藍の式神が、橙である。
妖術を扱う程度の能力を持つが、これは藍の式神としての力。
水に濡れると本来の人を驚かせる程度の能力に戻ってしまうとか。
そんな彼女は猫らしく勝手気ままな性格をしており、
主人である藍の言うこともたまに聞かない時があるようだ。
とはいえマタタビにはめっぽう弱く、渡されるだけで藍の頼み事をなんだって聞いてしまう。
そういう意味では、なんやかんやで藍のことは信頼している様子。
「面と向かって言えないけど、
藍様と紫様には感謝してるからね。
ただの化け猫が生きていくのは、結構大変だし。
藍様は美味しいご飯をくれるから、
私は恵まれてる方だと思ってるんだ」
心の中でそう語りながら、近所の山を散歩する橙。猫らしく散歩は彼女の日課で、大事な仕事だ。
「みんな、おはよー。今日も元気だ!
餌が欲しかったら、後で私の所に来ていいからね」
あちらこちらにいる野良猫たちに挨拶回りをしていく。
外界で棄てられて流れ着いた野良猫や、ナワバリを失って行き場をなくした猫たちを保護しては、
餌をあげて可愛がったり、仕事の手伝いをさせている橙。
幻想郷の野良猫たちにとって、橙はそれはそれは凄い猫として崇められているようだ。
猫たちが自由気ままに安心して暮らすことの出来る楽園……。
いつかそんな物が作れたらいいのになぁ、と思いを馳せる橙。
「なぁんて、今は藍様から
任されたお仕事を頑張らなくちゃね。
もっと強い化け猫にならなきゃ」
それにはあと何百年かかることやら。気の遠くなる年月だとしても、猫の好奇心が尽きることは無い。