「全ての事象を根底から覆す能力」と称される「境界を操る程度の能力」を持つ大妖怪。八雲紫。 この幻想郷せかいを作った賢者でもある彼女は立派な玉座に座ったまま、含みのある笑みで前を見据える。   「あら、今日も見に来たのね。私が作った
幻想郷を楽しんでくれているようで何よりだわ。
喜び、怒り、泣き、そして笑う…… 世界のどこよりも、
万物の何よりも豊かで楽しい幻想郷を」
まるで子どもが自分の描いた絵を自慢するかのように、紫は自信満々に胸を張る。 しかし、そんな彼女の満足感を邪魔するものが、ここにひとり。  
「それは聞き捨てならないな。この幻想郷らくえん お前ひとりで作ったものではないだろうに。 手柄を独り占めするような発言には、 創造主として待ったをかけさせてもらうよ」
椅子の後ろから姿を現し、紫の肩にそっと両手を乗せるのは、賢者の一人、摩多羅隠岐奈だ。  
「私がその気になれば、 幻想郷ハコニワを一から作り直すことだってできるんだ。 だからあまり私の機嫌を損ねない方がいい。 お前が私よりもこの幻想郷せかいを大事に思うなら、ね」
「あら、もしかして
私を試そうとしているのかしら。
別に構わないけれど、また今度にして頂戴。 今はお客様が来ているのよ。 幻想郷を傍観するお客様が」

「お前が勝手に覗いているだけだろう。 相変わらずいちいち含みのある言い方をしないと 気が済まないたちなんだなお前は」  
クックック、と二人の賢者は喉を鳴らす。両者ともに、視線を一点に向けながら――。