かつて幻想郷を騒がせた依神姉妹の妹のほう、疫病神の女苑はご機嫌な様子で人里を歩いていた。
しかし、ただ歩いているわけではない。彼女は鋭い眼力で人間の里の店の品揃えを見定めている。
「こういうところには
掘り出し物があったりするのよね~!」
彼女は決して金目のものには目を向けない。一見普通の物品と思えるものばかり手に取っていく。
店主がいくら品を褒めたり、女苑に対してお世辞を言おうとも、彼女の耳には届いていない。
女苑の目的はただ一つ。安くて長く使える物を見つける……ただそれだけなのだから。
「ちょっとうるさいわよ! そんなこと
言ったって、私は騙されないわ!
目先の利益しか見てないような奴は
……こうしてあげる♪」
女苑が扇子を振った瞬間、高価な品々の値札に書かれた金額がどんどん下がっていく。
それを見ていた店主は目を丸くするが、女苑は決して種を明かさない。
周りの客たちは、これ幸いにと商品に手を伸ばし始めた。
「オーホッホッホ! 良かったじゃない、
大繁盛よ~! お礼なんていらないわ!
ただ、詐欺まがいの商売もほどほどにして
おきなさいね。疫病神に取りつかれちゃうわよ?」
何か言いたげな店主の姿が人の波に飲み込まれる。その隙に、女苑は違う店へと移動を開始。
「結局、さっきの店では見つけられなかったけど
……今度こそ見つかるといいなぁ」
彼女の目的は、貧乏性の姉が喜びそうな便利で長持ちな一品。
依神女苑が必要としない、路傍の石のような価値のほとんどない無個性な商品だ。
「ったく……この私をここまで苦労させるだなんて
本当にだめ……いや、手のかかる姉さんだわ」
しかし、彼女とのこういう関係も悪くはない。女苑の緩んだ頬は、確かにそう言っていた。