「あのう……言っておきますけど、
あんまり期待しないでくださいね?
咲夜さんと比べられると……」
「当たり前でしょ。
分かっているわ、ちょっとした余興よ余興。
気負わなくていいから好きにやって」
紅魔館の主は気まぐれだ。住人たちは時折、彼女の思いつきに付き合わされることになる。
さてさて今回のターゲットは美鈴。
中国といえば茶芸だろう、ということで主にお茶を淹れることに。
(好きにやってと言われるのが、
一番難儀なんですけどねー。
いやはや、どうしたものやら……)
そんな美鈴の苦悩を知ってか知らずか、今か今かと待ち遠しそうに脚を揺らすレミリア。
期待していない――と口では言いつつも、これはそれなりに期待している時の様子に違いないだろう。
(ま、私もたまには役に立たないと!
やるだけやってみますか……!
見ててください、お嬢様!)
咲夜ほどではないが、美鈴だってお茶を淹れるぐらいは出来る。遠い昔の記憶を思い返す美鈴。
かつて修行の一環で、茶芸を学んだことがあったはずだ。ほとんど憶えていないが……。
(……うーん? ここからどうするんだっけ?
あれ? そもそも手順が違う?)
内心焦りつつも、決して顔に出ないよう、すました表情でやり過ごす美鈴。ああ、全部デタラメだ。
(ま、まあ、お茶の味なんて変わらないし……
それっぽく見えれば大丈夫……よね……?)
ふう、と呼吸を整え背筋を伸ばす美鈴。そしてテキパキとした動作でお茶を淹れていく。
「出来ましたよ、お嬢様。まずは香りを堪能して、
それから口の中で風味をじっくりと……」
「へぇ~……色々作法があるのね。
なかなか本格的じゃない! 面白いわ!」
口から出任せを言った美鈴は、レミリアの笑顔を尻目に引きつった苦笑を浮かべていた。