「うぅ~ん……うぅ~ん……チョコ、
バレンタイン……風習の大魔法が……あぁ……」
「まったく、パチェってば身体も弱いのに
研究のことになると無理するんだから。
こんなにうなされて、どんな夢を見ているの?」
ベッドで眠る親友を気遣うレミリアだったが、
ふとその傍らにある黒い物体と、一冊の本が目に留まる。
「これは、なにかしら……? 黒いわ。
ふぅん、この本を見ながらコレを作っていたのね。
ばれんたいん……? 外の世界の風習か……」
拾った本をパラパラと捲るレミリア。おそらくはパチュリーが扱っている本だろう。
やたら小難しい言い回しが使われていて、無駄に難解な解説が記されていた。
「好意を持つ相手に
チョコレートなるお菓子を渡す……?
お菓子……って、この黒い物体のこと?」
手に取って近づけてみると、甘く香ばしい香りがしてくる。果たして、どんな味がするのだろうか?
「しかし、好意ってことは……信仰ってことよね。
信仰されている人物ほど、これが貰えるわけか」
得心して、得意げな表情を浮かべるレミリア。興味本位で、手にした黒いそれを口に運ぶ。
「んー! なにこれ、美味しい! パチェの研究も
たまには役に立つのね。これは面白く使えそう♪」
「うぅ~ん……チョコ……
感情が……あぁ、うぅ……。
ダメ、ダメなのぉ……もうチョコは……」
「ふふっ、心配しなくても大丈夫よパチェ。
私がいい感じにこの魔法を
有効活用してあげるから」
すでにレミリアの関心はうわごとを呟く親友ではなく、バレンタインなる儀式へと向いていた。
「パチェはゆっくり寝ていなさい。
このカリスマである私に任せておけば、
楽しいパーティになるわよ」
レミリアはニヤニヤと怪しげな笑いを浮かべながら、後のことを任せるべく咲夜を呼びに行く。
「む、むきゅ~……ダメよ……チョコはダメ……
バレンタインは、危険なものなのよ……」