甘くて美味しいチョコレート。その原材料といえば……そう、外の世界では有名なカカオ豆である。   「こんな種から、あんなに美味しいお菓子が
できるだなんて。人間の知恵ってすごいわ!」  
幻想郷でそう馴染みのない、異国の種子を空に向かって掲げながら、秋穣子は訝し気に眺める。
「ばれんたいんでー……だっけ? 秋の催しじゃ
ないけれど、みんな盛り上がっているみたい。
私たちもどうにかして関われないかしら……
なんとかして、無理やりにでも秋に
からめることができれば……」  
華やかなイベントが多い冬に多少の嫉妬心はあれども、それだけでは事の改善は見込めない。 大切なのは、どうやって自分の側にそれを取り込むか。穣子はそのために頭を捻った。
「そうだわ。芋にからめてみるのはどうでしょう。
スイートポテトみたいにしてみるの。
上手くできれば人間たちも喜ぶし、
私たちへの信仰心も増えてくれるかもしれない」  
一年の中でもっとも短く、そしてもっとも儚い秋という季節。 それを司る秋姉妹は、自分達への信仰心を増やす方法を常に探し求めている。
「チョコレートって見た目も
いろいろ変えられるみたいだし、
姉さんに頼めばさぞ綺麗な
チョコレートを作ってくれるに違いないわ」
木々を紅葉させる役割を持つ手先の器用な姉を思い浮かべながら、穣子は再びカカオ豆へ視線をやる。   「あなたが私たちの救世主に成り得るのか、
試させてもらうわよ?」  
この後、カカオ豆は秋姉妹の手によって、幻想郷に植えられた。 その種が芳醇に実るかどうかは、まだ誰も知らない。