これは、あるユメの記憶。 激しく弾幕が飛び交い、土煙が舞い、火花散る中。空中だというのに、一人の少女が膝をついた。   「まったく……手間かけさせるわね、本当に……
大人しく退治されなさいっての……」  
彼女の前に立ちはだかるは、幻想郷の創設者。スキマを操る大妖怪、八雲紫だ。 命の取り合いではない、あくまでも派手さ、綺麗さを競う弾幕勝負。 しかし、それでも、力の差は歴然。霊夢は赤子の手をひねるように弄もてあそばれる始末だった。
「この私が本気を出す羽目になろうとはね……
いや、今までも大分本気だったけど……。
今更後悔したって許してあげないんだから。 そのいけ好かない笑顔を
ぐずぐずにしてあげるわ!」  
手にしたカードは、彼女のラストワード。 これが破られたら、霊夢の敗北は決定づけられてしまう。だからこその、奥の手だ。
「いくわよ紫!
避けたら承知しないんだから! 『夢想天生』!」  
霊夢という存在を、ありとあらゆるものから宙に浮かせ、事実上の無敵と化す。 目を瞑つむった霊夢を中心に、無数の札と弾が弾幕となり、敵に向かって飛来していく。 遊びでなければ誰も勝つことができない。――しかし、これは弾幕ごっこ。そこに無敵は存在しない。   「そん、な……
私の切り札が…夢想天生が破られるなんて……」
負けた霊夢は浮遊力を失い、地面へと真っ逆さまに落ちていく。 けれど、敗北を確信してもなお、その瞳は絶望に沈んではいなかった。 落ちて、落ちて、落ちて落ちて落ちて――地面にぶつかる、まさにその瞬間。   「――ハッ! あ、あー……?
もしかして、今の夢……?」  
無敗の巫女だっていつかは敗れるのだろうか。しかし、その時…… 空を知るその瞳が、絶望に染まる事はないのだろう。