「さ~て。せっかく宴会に呼ばれたんだ。地上の
奴らに、たっぷり地獄の地酒をふるまってやろう」  
旧知の仲である伊吹萃香から地上の宴会に呼ばれた、旧地獄に住まう鬼、星熊勇儀。 鬼といえば酒に目がなく、まためっぽう酒に強いと古来より相場が決まっている。 戦うときでさえ、酒が並々注がれた盃を手放さない勇儀は、鬼の中でも相当の大酒のみだ。   「地底には美味い酒が多いからねぇ。
この私がとっておきの酒を選んでやろう」
加えて、勇儀は面倒見のいい姉御肌でもある。久方ぶりに顔を合わせる仲間を喜ばせるべく、 勇儀は旧地獄の酒屋をめぐり、土産の酒を萃あつめていく。   「おっ、こいつは旧地獄の名酒、大煉獄だね。 これだけ強い酒は、地上の連中も
飲んだことがないだろうさ。
こいつはヤマメに勧められたんだっけな。
こっちのはパルスィと一緒に飲んだ酒だな。
……こうしてみると、
なんだかんだ、地底のツレも増えたねぇ。
酒の肴にちょうどいい、
こっちのツレの話を萃香たちに聞かせてやるか」  
いつの間にか、すさまじい量の酒の山が出来ていることに気づいた勇儀。 だが、なに、構うものか。萃香を始めとした鬼の仲間たちは、いずれも劣らぬ酒豪たちばかり。 どれほどの酒、どれほどの話を萃あつめても、すべて笑いながら飲み干してしまうだろう。
「あいつらのことだ。 たとえ十石……一升瓶が千本あったって、
腹の中に流し込んじまうだろうさ。
それに地上の奴ら、地底の酒を飲んだら
あまりの美味さに驚くだろうね。
ああ、今から楽しみだねぇ!」