――灯りひとつない幻想郷の暗い夜空。
博麗神社の鳥居の上、青白い月光に照らされて、朧げに浮かび上がる人型がふたつ。
罰当たりにも鳥居に腰掛けるは、かたや童女のように小柄で可憐な少女。
その隣に並ぶのは、四肢がすらりと伸びた長身の美女。
二者の姿は、この世のものとも思えぬ浮世離れした雰囲気を纏まとっている。
――それも当然だろう。小柄な少女の頭部からは捻じれた一対の角が、
長身の少女の額からは赤い一本の角が生えているのだから。
「いやー、しかしまた、
こうしてあんたと酒が飲めるなんてね――勇儀」
小柄な鬼の少女――伊吹萃香が、隣にいる旧友に視線を送る。
「ま、確かにそうだね。ここ何百年かで、
ずいぶん顔見知りもいなくなっちまったからな」
ふっ、と頬を緩めてかすかな笑みを浮かべてから、星熊勇儀は懐かしむような、遠い目をする。
会えぬ友、消えた妖怪、死んだ人間――
この場にいない者たちが、ふたりの瞼の裏に浮かんでは消える。
晨星落々しんせいらくらく――長命の鬼である彼女たちは、親しい者との別れを幾度となく経験してきた。
「ま、勇儀が地底で元気にやってたんだ。
どっかその辺でのんびりやってる奴が、
まだいるかもね」
「ああ、そいつはいい。
それなら、いつかまたこうやって
萃あつまることだってできるだろうさ」
それが夢物語と知りながら、ふたりが掲げた盃が、月を背景に交わされる。
もはや会えぬ友に捧げるように――ふたりの鬼は、束の間の感傷に浸り、飲み明かすのだった。