永遠亭の居間で鈴仙がひとり、何やら懸命に梱包作業に勤しんでいる。
いつもの薬包とは違う。可愛らしい包装紙で箱を包んでいるようだ。
さらには色鮮やかなリボンまで結ぶと、鈴仙は満足そうに微笑んだ。
「師匠の手伝いで包装するのには慣れてるけど、
むしろ中身のチョコを作るほうが大変ね……」
彼女は今、鈴奈庵の外来本で仕入れた外の世界の文化――バレンタインの準備をしていた。
まったく経験のなかった鈴仙だが、それがどういう催しなのかはある程度説明された。
いわく、日頃お世話になっている人たちに、感謝の気持ちを込めてチョコレートを渡す日らしい。
「外の世界の人って、面白いことを考えるわよね。
わざわざお菓子で感謝を伝えるだなんて。
まあ、直接お礼を言うのって、ちょっと
照れくさいところもあるもんね……あはは」
師匠である永琳と主人の輝夜はもちろん、腐れ縁のてゐ、そして竹林の案内人である妹紅。
ついでに霊夢や魔理沙にも渡してあげようと、ひとつひとつ丁寧に梱包していく。
渡す相手によって一工夫を入れるところは、さすがは永琳の一番弟子といったところか。
「こっちは薬を買いに来てくれた人たちに渡す用、
こっちは子ども達に配る用……」
薬を売るために里に行ったとき、“義理”と人情でチョコレートを渡す用の準備も抜かりない。
「あとは……こっちがてゐの分っと。
ふふふっ、いつもやってくれるお返しよ」
そう言いながら取り出したのは、禍々しい匂いを放つチョコレート。
いつもイタズラをされている仕返しにと、てゐに渡すものには唐辛子をふんだんに使用してある。
「バレンタインで伝えるのは、
何も感謝だけじゃなくてもいいわよね?」
みんなの喜ぶ顔、てゐの慌てふためく顔を思い浮かべながら、
鈴仙はひとつひとつ丁寧に、チョコレートにリボンを結ぶのだった。