依神紫苑。貧乏神である彼女にとって、日常とは不幸と隣り合わせなものだった。 道を歩けば小石に躓き、裏道を通れば野良犬に追い掛け回され、森に入れば道に迷う。 貧乏神としての日常こそが、彼女にとっての普通だった――だが、その日だけは、違った。   「えへへ。こんなにたくさん、
チョコレートをもらっちゃった……」  
路地裏の筵の上に広げたいっぱいのチョコレート。多種多様な包装紙に包まれた、幸せの象徴。 誰にもとられないようにチョコと自分をぼろぼろの毛布で包みながら、紫苑はその一つを持ち上げる。 大好きな親友、天界の問題児からもらったチョコを前に、紫苑は表情を緩ませる。
「美味しそう……きっとすごく甘いんだろうなあ。
ああ、今日は本当にいい日だなあ」  
たくさんの人からチョコを貰い、作ったチョコを渡し感謝される。 こんな幸せな日は随分と珍しい……いや、あるいは彼女にとっては初めての経験かもしれない。   「毎日一個ずつ食べていこう。
すぐに食べちゃったらもったいないもの」
手に持っていたチョコの包装を開封し、その中身を外界に露わにする。 天界の桃をドライフルーツにして混ぜ込んだ、世界で二つとない特別なチョコレートだ。 紫苑は躊躇ためらうことなくチョコを齧かじる。すると、彼女の心を幸福が満たしてくれた。   「美味しい……っ!
ああっ、私、こんなに幸せでいいのかな……!」  
明日か、それとも次の瞬間か。すぐにこの幸福は不幸に変わってしまうかもしれない。 それでも、その日、紫苑は一時不幸を忘れ、幸せに満ちた笑顔を浮かべた。